【スリランカ2017】海外出張・旅行の濃度を10倍上げる9つのポイント
せっかくの旅も出張も漫然と過ごしてしまったらもったいない。観光地や仕事の得意先を回る途中にも、その国をよりよく理解するためのヒントが沢山落ちています。
旅も出張もより充実させるための9ポイント。
今回はスリランカ編。
- 1. 地図:日本とスリランカの位置関係
- 2. 基礎データ
- 3. 歴史
- 4. マクロから国を見る
- 5. 主要産業
- 6. 基礎インフラへのアクセス
- 7. 汚職率
- 8. 貧困にかかる指標
- 9. ビジネス環境
- 今日の「役立ち」
1. 地図:日本とスリランカの位置関係
まずは場所から。
スリランカ航空(JALと共同運行)が週4で直行便を運行しています。片道8~9時間程度。 8つの世界遺産、アーユルヴェーダやセイロン紅茶で最近では日本でも人気の観光地の一つになっています。特にシーギリヤロックはリアルラピュタ城。私も登りました。必見です。なぜ岩の上に都市を築いたのか、歴史的背景を知ってから行くとより楽しめます。
2. 基礎データ
- 面積 6万5,610平方キロメートル(北海道の約8割)
- 人口 2,096万人(2015年央推計)出所:スリランカ中央銀行(Annual Report 2015)
- 首都 スリ・ジャヤワルデナプラ・コッテ
- 民族 シンハラ人(72.9%),タミル人(18.0%),スリランカ・ムーア人(8.0%)
- 言語 シンハラ語、タミル語
- 宗教 仏教70.2%、ヒンドゥー教12.6%、イスラム教9.7%、キリスト教6.1%
主要商業都市はコロンボですが国会議事堂といった省庁が立ち並ぶのがスリ・ジャヤワルデナプラ・コッテです。コロンボ都市圏の一部であり、町中から車で東に1時間程度(混まなければ30分程度)に位置します。主要言語はシンハラ語とタミル語ですが、都市では英語が普通に通じます。ビジネスマンも公務員も英語が非常に流暢です。
3. 歴史
- 1802年 アミアン条約によりスリランカは英国植民地となる
- 1956年 バンダラナイケ首相就任。シンハラ語のみを公用語とする公用語法成立。
- 1972年 国名をスリランカ共和国に改称(英連邦内自治領セイロンから完全独立)
- 1983年7月 大騒擾事件,タミル・イーラム解放の虎(LTTE)との内戦本格化
- 2002年2月 政府とLTTEとの停戦合意成立
- 2004年12月 スマトラ沖大地震及びインド洋津波により,スリランカ北西部を除く全ての沿岸が被災し,3万人以上が犠牲。
- 2009年5月 政府軍,北部LTTE支配地域を全て奪取。内戦終結。
- 2015年8月 総選挙でUNP勝利。第二党のスリランカ自由党(SLFP)と大連立形成。ウィクラマシンハ首相再任。
スリランカ初代大統領になったJ.Rジャヤワルダナ氏の1951年サンフランシスコ講和会議で日本の真の自由と独立の支持を訴えた名演説(ブッダの言葉であるダッマパーダ(法句経)5を用いた「Hatred ceases not by hatred but by love (人はただ愛によってのみ憎しみを越えられる。人は憎しみによっては憎しみを越えられない)」)は、日本人なら絶対に覚えておきたいエピソードです。
4. マクロから国を見る
GDP総額
大まかな経済規模を確認するためにGDP総額を日本、そして他の南アジア諸国と比較してみます。「2. 基礎データ」で見ましたが、人口が少ないこともあり、やはりインドやパキスタン、バングラデシュには劣っています。
GNI per capita PPP
一人あたりの所得水準を見てみると南アジアの中で1位に躍り出ます。
5. 主要産業
各セクター比率
次は南アジアの中で1位である一人あたりの所得水準がどのような産業に支えられているか確認してみましょう。以下は2000年と2015年における産業に占める農林水産業(第1次産業)、工業 (第2次産業)、サービス産業(第3次産業)の比率を示したものです。
(2000年)
(2015年)
スリランカの産業構造は2000年から2015年まで指標上は全く変わっていません。 産業構造の中身をよく確認する必要がありますが、指標上はサービス産業(第3次産業)に重心が移ってきており、産業が成熟してきているとも見てとれます。
産業構造の変化は、1人当たり国民所得の上昇につれ、農林水産業(第1次産業)から工業 (第2次産業)へ、工業からサービス産業(第3次産業)へとその重心を移していくのが一般的です。この法則は、発見したペティ(1690年)および再発見したクラーク(1940年)の名をとって、「ペティ=クラークの法則」と呼ばれます。
なお参考までに日本の産業構造(2014)は以下のとおり。
高付加価値を生む繊維業
スリランカは1970年代まで、紅茶・ゴム・ココナッツ等の植民地時代のプランテーションに頼ってましたが、グローバリゼーションの流れもあり現在の主要産業は繊維業に移っています。その大きなきっかけになったのは1991年にプレマダーサ大統領政権時の「200縫製工場計画」。この計画によって、全国に200の輸出用衣類製造を目的とした縫製工場の建設計画が立てられました。
1994年の国際協力事業団(現JICA)の報告書に以下の記載があるとおり、当時から将来を睨んだ繊維業の高付加価値が必要であると認識されていたことがわかります。
その結果、現在は衣料品が最大の輸出品目となりました。特に女性下着のような複雑な製造工程を必要とするものを生産することに成功し、バングラデシュを始めとした低賃金・大量生産の繊維業とは一線を画すことに成功しています。
観光業のポテンシャル
前述したがスリランカには8つの世界遺産があり観光業のポテンシャルは非常に高いと言えます(日本でも最近話題になっているアーユルヴェーダもあります)。以下の通り、指標・数値上でも大きく改善されてきていることがわかります。
内戦終結後はスリランカを訪れた観光客数の2桁成長が継続。2015年には約180万人(前年比17.8%増(2009年比301.5%増)) の観光客がスリランカを訪れた。政府は2020年までに 観光客数を年400万人に引き上げる方針を打ち出している。観光収入についても、2009年の3億5000万ド ルに対し、2015年には29億8000万ドルと8.5倍となった。
スリランカはシンガポールになれるか?
これに伴いホテル・不動産業への投資も膨らんできています。コロンボ市内で言えば、シャングリラホテル、ハイアットホテルが現在建設中。モーベンピックホテルは先日コロンボ中心部にオープンしました。以下の記事の通り、日本企業であるベルーナ社もリゾート開発に乗り出しています。
スリランカ政府と協力した高級リゾートホテル2017年春に完成予定 | ベルーナ
6. 基礎インフラへのアクセス
次は別の角度から国を見てみます。基礎インフラへのアクセスはどうでしょうか。
安全な水へのアクセス
世界銀行のデータ(2015)によると「安全な水へのアクセス」は都市部は99%、地方部95%と優秀な成績です。
しかし、この数値は日本のように「どこでも蛇口をひねれば水がでてきてそれが飲める」というわけではありません。井戸水もこの「安全な水」に含まれているので注意が必要です。
電気へのアクセス
電気へのアクセス(2012)も比較的優秀です。コロンボに滞在している限りにおいては、ほとんど停電はありません。
インターネットへのアクセス
インターネットへのアクセスは以下のとおり。
上記のグラフだとあたかもネットが利用されていないように見えてしまいますが、通信会社の大手Dialogがサービスを提供しているシムが空港で購入でき、出張者や旅行者は困ることはありません。ネット速度も問題なし。
7. 汚職率
リスク面にも焦点を当ててみましょう。
汚職率を示すCorruption Perceptions Index(2016)95位/176カ国という結果。日本+南アジアで比較して見ると以下になります。
これらが効率的なビジネス展開、そして政権への信頼度に悪影響を及ぼしていると考えられます。
8. 貧困にかかる指標
GINI係数
2012年の世銀データによると、39.16(0が完全平等、100が不平等)となっています。各年のデータが不足しているので一概に他の南アジア諸国と比べられませんが、比較的高い値(つまり格差が大きい)と言えそうです。
貧困率(全人口における貧困層の割合)
一方、貧困率を示すPoverty headcount ratioを見てみると2012年の値で1.92%になっています。南アジア内で比べるとかなり低いことがわかります。コロンボ市内では物乞いに遭遇することもインド等に比べれば格段に低いです。
上記2つの指標から「スリランカは絶対貧困で苦しんでいる人々は他国に比べて少ないが、相対貧困(つまり格差)は比較的高い」ということが見えてきます。
9. ビジネス環境
世銀が出しているDoing Business 2017 - Equal Opportunity for All - World Bank Groupによるとスリランカのビジネス環境は110位/190カ国とのこと。意外と低いですね。
詳細を見てみると、登記等の手続き面の改善はビジネス環境の改善につながっていますが、南アジアの中でも高い税金、資産登録の煩雑さ、契約訴訟になった時の紛争解決にかかる時間の長さの3つの要素が総合順位を押し下げています。
今日の「役立ち」
いかがでしたでしょうか。ざっと9つのポイントを見ていくだけで、経済の規模感・産業構造・抱える問題・生活水準といった点について、大体の感覚をつかめたのではないかと思います。そのような視点から、出張・旅行中に仮説・疑問を持って市内を見渡してみるといろんな気付きがあるはず。
- 質の高い繊維品は自国に流通しているのだろうか?それとも輸出されているだけ?
- 人々の生活水準は実際に指標と同じレベルなのか?
- 都市部(コロンボ)と地方部の格差は?
- 物乞いは市内にいるのか?
- この国が次に必要としているビジネスチャンスはなんだろう?
- 観光業・ホテル業にはどの国が積極的に投資しているのだろう?
皆さんの出張・旅行が密度・濃度が格段に上がったものになりますように!
参考HP
- JICA研究所:JICA国際協力総合研修所・JBIC開発金融研究所の調査研究情報 | JICA研究所 - JICA
- World Bank Group
- 地域別インデックス(アジア) | 外務省
- アジア | 国・地域別に見る - ジェトロ
- Doing Business 2017 - Equal Opportunity for All - World Bank Group
- Global Terrorism Index 2015
- Corruption Perceptions Index 2016 - Transparency International
- スリランカはシンガポールになれるか?
- スリランカ国繊維生産・品質向上計画事前調査報告書
参考書籍