やがて悲しき「日本型の産業化支援戦略」
新しい開発論を考える上で「日本型の産業化支援戦略」が興味深いので、以下まとめてみたいと思います。
- 1. なぜ提言がつくられたか?→作成の目的は「これまでの整理不足とアピール不足」
- 2. キーワードは「人材育成→インフラ支援→金融支援→外国企業の進出」であり、アクションプランは「JICAとJBIC頑張れよ」&「もっとエビデンスに基づく研究をやろう」
- 3. 最終目標は、FDI(海外直接投資)の活性化
- 今日の「役立ち」
1. なぜ提言がつくられたか?→作成の目的は「これまでの整理不足とアピール不足」
作成の目的を噛み砕くと「今まで日本の途上国への援助戦略は成功してきたが、それらがちゃんと整理されておらず、国際的にアピールすることが必要だと感じたから」というもの。開発論・援助論には色々な切り口がありますが、この提言は『「産業発展」と「雇用の創出」が開発支援の中心課題である』という立場にたって、議論が進められます。本提言内で述べられてる主要ポイントは4つ。
(1) シークエンス(連鎖)のある支援を実現する
(2) FDI(Foreign Direct Investment,海外直接投資)の促進を目標とする
(3) 農業でも革新的な支援を推進する
(4) エビデンス(科学的根拠)に基づく支援を追求する
なお、この提言に以下の記載があります。
つまり開発援助の世界には、関係者の誰もが賛同するような効果的な「開発支援戦略」がないのである。 そのために途上国の開発支援は、課題対応型の対策に終始してきたのが実情である。
これは開発実務者にとっては至極当たり前の話で、例えば海に接していない内陸国(ウズベキスタン)と島国(スリランカ)では、根本的に国家政策が変わってきます。なぜなら「海」に接しているかどうかで、貿易・防衛といろんな要素に差がでてくるからです。これは一例ですが、その他様々な要素が複雑に絡み合っており、宗教や文化も大きな鍵になってきます。よって国ごとに処方箋を変えなければいけないことから『関係者の誰もが賛同するような効果的な「開発支援戦略」がない』のは当たり前のことなのです。
一方で日本がこれまで支援してきた事例を「ひとつの型」としてまとめて、世界に発信するのは有意義ですね。型なくして応用なし、ですから。
2. キーワードは「人材育成→インフラ支援→金融支援→外国企業の進出」であり、アクションプランは「JICAとJBIC頑張れよ」&「もっとエビデンスに基づく研究をやろう」
「産業発展」と「雇用創出」が最終目的にあることから、支援において「人材育成→インフラ支援→金融支援→外国企業の進出」の流れを当初から意識することが強調されています。
特に最初の3ステップは公共性の高い事業であり、民間で実施しにくいことから「民間セクターの意見も聞きながら、JICA頑張れよ。民間セクターの色が強くなってきたら、JBICも頑張れよ」という議論になっています。実施に移すためには、しっかりと日本として「予算をつけ、優秀な人材を集めること」が重要でしょう。「頑張れ」だけでは、何も変わりません。エビデンスに基づく研究についても、ぜひ早期実現をお願いしたいと思います。
少し曖昧なのが、「外国企業の進出」は「日本企業の進出」と同義なのか、という点です。最終的に日本が育てた人材育成、整備したインフラ・投資環境を土台に、中国企業・韓国企業が進出し、被援助国の「産業発展」と「雇用創出」に貢献した場合、日本はどのようなスタンスをとるのか。もし日本企業進出を念頭に置くなら、どのような手をとるのか。そもそも今後他国に日本企業は進出を望まれるのか。そこをクリアにしないと実務になった際に、必ず問題になります。
「各セクターが有機的に連携」とありますが、そんな言葉で逃げてはダメです。
3. 最終目標は、FDI(海外直接投資)の活性化
上記のキーワードに含まれているように、最終目的は外国企業に対する直接投資です。以下のとおり、民間セクターの投資というのは量的にもインパクトが大きいためです。
多くの実証研究が明らかにしているように、外国企業による直接投資は、様々なチャ ンネルを通して投資受入国の経済発展に貢献する
ODA による支援の連鎖で鍵となるのは、それが最終的に民間セクターによる FDI の呼び 水あるいは潤滑油となることである。金額ベースで FDI は ODA の9倍近くに達しており、 FDI が途上国経済に与えるインパクトは ODA よりもはるかに大きい 。
一方(全ての方の経歴を調べたわけではありませんが)この提言作成に携わった方々に現役で民間セクターの方が皆無です(住友商事荒川顧問はもともとJICA出身)。
最終地点としてFDIを提言するからには、そして少なからず日本企業の進出を念頭においているのなら、もっと民間がどのようなタイミングで投資判断をするのか、という議論を含んでもよかったように思います。20年前と今では投資を判断するための要素も分野も違うはずです。
今日の「役立ち」
この提言は野心的で新たなチャレンジだと思います。わかりやすく日本の支援の型を説明する、という点でも実務的に役立つでしょう。
一方で、上記に挙げたポイントがより議論され、実際のアクション(つまりは予算や人の動員)にまでつながらなければ、何も変わらないのも事実。 また、本来意義に立ち戻って、英語でも発信していただきたいと思います。
ではでは。