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サルとイヌの共同ブログ

【お気楽映画レビュー:★★★】『永い言い訳』はダメ野郎のための映画

永い言い訳

永い言い訳

 

「馬鹿な顔」という言葉が頭から離れない…。

突然、妻を失ったのに泣けない男の話。もともと失っていたものを、もう二度と取り戻せないという葛藤を描いた作品だと感じました。西川美和氏の原作・脚本・監督作品。有無を言わず御覧ください。 

1. 幸夫くんの過去

妻が亡くなったのに涙がでない本木雅弘演じる衣笠幸夫。映画だけ観るとダメ野郎なんですが、彼には彼の過去があって、それが微妙にズレた影響を与えてあんな風にダメ野郎になっているわけです。それが映画ではカットされすぎていて、気取ったダメ野郎に終始しているのが少し残念。でもそこは本木雅弘の演技力で、繊細な心の奥のゆらぎが表情から読み取れて感情移入できるところは、映画版のよいところですね。

私は原作を読んでから映画を見ましたが、映画を見てから原作を読んだほうが二度楽しめると思います。「あーそうだったのか」と思うこと間違い無し。もちろん映画だけでも面白いんですけどね。夏子を演じる深津絵里の存在感は半端ないです。セリフ、あんなに少ないのに。

 

2. 竹原ピストルの存在感

本当にダメ野郎に成り下がった幸夫くんが逃避し、でも自分の居場所を取り戻していくきっかけになったのは、同じ事故で母親を失った一家。残された夫である大宮陽一を演じる竹原ピストルがハマり役。原作で想像していた通りの演技でした。

この映画で最も泣けるのは、決して衣笠幸夫が人生を取り戻していく姿ではなく、大宮陽一が妻からの留守番電話を決意のために消去するシーンです。

 

3. 原作・脚本・監督だから描ける表現の違い

「映画には映画の表現があって、小説には小説の表現がある 」というのを体現した作品といっても過言ではありません。やっぱり小説の方が細かい設定や背景、描ける幅も広いので原作を読んでから観ると、カットされているシーンに寂しさを感じてしまいます。一方で映画にしかできない表現もある。食卓を囲む時の和み感、子どもたちが幸夫に心を許していく時の雰囲気の変化、一言一言で変わる表情。

特に徐々に伸びていく幸夫の髪の毛と季節の流れは、妻を失った期間の流れがビジュアルで伝わってきます。それぞれの良さがあるので、やっぱり二度美味しい作品。

でも最後の終わり方は、小説のほうが良かったなぁ。でも映画では小説のような終わり方をするとチープになってしまうので、そうしなかった気持ちがよく分かるのですが。

 

今日の「お気楽映画レビュー」

全体としては大満足。でも一つだけあえて言うのなら、作中にでてくる衣笠幸夫(津村啓)が妻の死後に書き上げた作品を「永い言い訳」という本作と同じタイトルにしてほしくなかった。なんかちょっと興ざめしちゃうんですよね。映画の中にどっぷりつかっていたのに「晩御飯できたから早く食べなさい」とオカンに言われて現実に戻されるような感じ。それでもこの映画は最高です。

そして不倫相手を演じる黒木華の「馬鹿な顔」という一言が日本中のダメ男どもの心に響きまくりやがる作品とも言えるでしょう。

 

*追記*

すっかりファンになってこの本も買ってしまったわけです。表現者だなぁ。